屋敷には年ごろの娘がいる。美しいかというとそうでもない。かといって醜くもない。少しばかりぼんやりした感じのお嬢様である。
お嬢様には客が多い。客は和室の客間に通される。お嬢様が客に会うときに、客間の隅に控えているのが私の仕事である。不心得な客が来るわけでもなく、何のために控えているのかさっぱりわからない。
客があるときには、客間のふすまを一枚開けておく。ふすまの向こうには次の間があるのだが、ふだんから使われてない部屋で何もない。このふすまを一枚開けておく理由もわからない。
一度、客が通される前に気を利かせたつもりでその開けられていたふすまを閉めようとしたところ、古参のねえやにひどく叱られたことがある。わけを聞いても、そういうきまりになってます、と要領を得ない。
客の中に毎週のように通ってくる若い娘がいる。年格好がお嬢様によく似ている。それも道理で、幼い頃に養女に出されたお嬢様の双子の妹とのことだった。
同じ顔かたちをしていながら、姉妹はずいぶん感じが違う。それは表情のせいかもしれない。お嬢様がぼんやりしているのに対して、妹君はしゃんとした印象がある。
その妹君が帰り際に私に声をかけてきた。「あなたはあのふすまを開けておく理由をご存じですか?」私が存じませんと答えると、「お知りになりたいですか?」と聞いてくる。ぜひお聞かせください、と私。
「閉まっていると、鬼に変じるのです」誰がとも、どうしてともなかった。どうしてかはわからなかったが、誰がかはなんとなくわかった、ような気がした。


