図書館の本は、たいていカバーの上から透明な粘着フィルムが貼られているが、その本の見返し部分に折り返されたカバーの一部にはフィルムが掛かっていなくて、表紙裏とカバーの間がポケット状になっていた。そのポケットに小さな紙片がはさまっている……というより、表紙裏に貼り付けてあった。
指先でつつくとぱり、と乾いた音がしてその紙片ははがれた。大きさは名刺くらい、けれど名刺よりはずっと薄い紙に、繊細な線画(銅版画か?)で女性の裸像が描かれている。女性は大きな本をかかえていてその表紙には「Ex Liblis」の文字がある。これは蔵書票だ。
蔵書票とは、本の所有者が自分の蔵書であることを示すために本に貼り付ける紙片のことだ。「Ex Liblis」とは「蔵書からの一冊」という意味のラテン語で、西洋の蔵書票の決まり文句らしい。
蔵書票が貼ってあったということは、件の本は誰かの蔵書であったものが図書館に寄贈されたのだろうか? それにしては誰の蔵書かわからない。蔵書票には「Ex Liblis」の他に票主(本の持ち主)の名前が記されるのが通例なのに、この蔵書票にはそれがない。「Ex Liblis」の文字の他は絵だけだ。
それとも、蔵書票はブックデザインの一部としてもともと本に付いていたものだろうか? いちいち表紙裏に紙片を貼り付けるような手間のかかる装丁をするような本とは思えなかったが。
後ろめたい気がしたが、私はその蔵書票をコピーして同じ大きさに切り、表紙裏とカバーのすき間にはさんで本を返却した。理由はわからないが、蔵書票の女性の絵は他にもバリエーションがあるような気がしている。


